産学連携活動「くらべるカカオ」生産

東京大学樹芸研究所のカカオ研究とメリーチョコレートとの産学連携について

東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林樹芸研究所

所長 鴨田 重裕

東京大学には学生がカカオ豆からチョコレートを作る正課があります。1,2年生を対象とする全学体験ゼミナール「伊豆に学ぶ」という体験型の教育プログラムにおいて、チョコレート作りを重要なアクティビティの1つと位置付けています。しかし、チョコレート作りに詳しい東大生を育てることが目的ではありません。チョコレートの他に「伊豆に学ぶ」シリーズではプリミティブなエネルギーである薪と炭にスポットを当てますが、やはり炭を焼ける東大生を育てたい訳でもありません。プリミティブなエネルギーには見え易く、現代の都市生活で使うエネルギーには見え難いモノがあります。学生にそういうモノを意識させることがゼミの真の狙いです。チョコレートにも同じ狙いを込めています。当たり前の存在になっているチョコレートや便利に使えるエネルギーは、どの様なプロセスを経て手元に届くか意識することなく消費されます。現代社会ではプロセスが複雑化し、それが見え難くなり関係性が希薄になります。現代社会に生きる私たちは、一昔前の人間よりもつながりが見えづらい状況に置かれていることをよく理解して注意深く行動しなくてはなりません。体験ゼミ「伊豆に学ぶ」はその様な気付きを与える教育を目指しています。

このプログラムは開発当初、市民公開のスタイルで試行されており、このことが樹芸研究所とメリーチョコレートを引き合わせました。樹芸研究所の志にメリーチョコレートが共感して産学連携が実現し、次の4本の柱からなる共同研究を2015年4月に開始しました。

  • ① カカオ等熱帯原産有用植物の日本国内における増殖・栽培に関する研究
  • ② カカオ等国産熱帯原産有用植物を商品利用する生産システム構築に関する研究
  • ③ 希少植物の保存に関する研究
  • ④ 成果を大学教育および生涯教育に資する研究

産学連携の最も大きな利点となるのは、「活きた教材」を産みだす可能性だと考えています。④の成果を教育に資することは共同研究の最終目標と言えます。

大学単独でも、温泉熱で無農薬で育てた国産カカオから、発酵も自分たちでコントロールして乳鉢乳棒で磨り潰してチョコレートらしいものを作ることを実現していました。大学生に感じ・考えさせる教材としては、それで十分かも知れません。しかし、「産」と組んで既製品の品質にまで加工してみると教材として異なる側面を備えることに気付きます。「チョコレートの原料は外国産である」という既成概念が支配的であること。世界の名だたる産地のカカオとの味くらべというパッケージングは「学」単独では実現できないことです。既成概念と向き合って自由な発想で道を切り拓きたい「学」の願いが、「産」の協力を得て少し進捗した思いがします。③の希少カカオ種の保存を日本の温室で実現して世界のカカオ産業に貢献することも決して夢物語ではない様に思います。産学連携のメリットは無尽に広がります。

東大生インターンによるチョコレート生産体験

国産カカオの栽培からチョコレートを作る。

メリーチョコレート大森本社にて東大生インターンによるソイル トゥ バーでのチョコレート生産体験が行われました

東京大学には、1,2年を対象とした全学体験ゼミナール「伊豆に学ぶ」という体験型のプログラムがあり、その中でチョコレート作りが重要なアクティビティとして取り上げられています。

このたび、東京大学とメリーチョコレートの産学連携を機会に、全学体験ゼミナール「伊豆に学ぶ」の5名の受講生が、メリーチョコレートのインターン生となり、メリーの本社でチョコレートの生産実習を行いました。

チョコレートは、実際に樹芸研究所で栽培されたカカオを使って、ビーン トゥ バー(カカオ豆からチョコレートを生産すること)によって生産されました。カカオをロースト、微粒子に粉砕、コンチング、テンパリングなど、チョコレート製造の作業は、学生にとって未知の体験で、体験レポートには普段、身近な存在のチョコレートが、多くの過程を必要とすることに新たな気づきと驚きの声が寄せられました。

製法は、ビーン トゥ バーの方法をとりましたが、この産学連携では、樹芸研究所産カカオの栽培からチョコレートを作る過程を体験するため、「ソイル(土)トゥ バー」と呼んでいます。

VOICEインターン生の声

榊 遥佳

チョコレート工場での体験についてのレポート

私はチョコレート工場インターンに伊豆ゼミ生として参加しました。本来工場で機械によって行われるカカオからチョコレートを生成する過程を、5人の友人とともに手で行うという経験は大変に貴重なものでした。

「伊豆に学ぶ」というゼミは、自然と人間の暮らしというテーマにスポットを当てています。普段の生活では直接的に感じにくい自然の存在を、ゼミを通して感じ、普段から私たち人間は自然とともに生活しているということを気づかせてくれるゼミです。

今回のチョコレート工場での体験もそうでした。普段何気なく購入し、食べているチョコレートが植物のカカオからつくられているということを、身をもって体感しました。そんなことは小学生でも知っているのではないか、という人もいるだろうと思います。

しかし、カカオがチョコレートになるまでにどのような作業が行われるかを知っている人は限られるのではないでしょうか。カカオの豆が、あのなめらかな口当たりのチョコレートになるまでには、多くの過程が存在します。

それを自分たちの手で数時間かけて行ったことは、機械化により私たちの目に触れることが少なくなってしまった自然とのつながりを強く感じる機会となりました。

チョコレートをつくったときのみならず、その前の座学でのチョコレートに関する講義も大変有意義なものでした。プランテーションごとにカカオ豆の癖が微妙に異なり、酸味のあるものから甘いものまで種類がたくさんあること、またそれが地域によって異なる土壌による差異だということを知り、人間にはどうすることもできない自然の存在を感じました。

一方で、よりおいしいチョコレートをつくるために、そのプランテーションからどれくらいのカカオを輸入するかと計算していると聞いた時には、人間が自然に対して試行錯誤する姿のひとつがここにあるのかもしれないと思いました。

たった一日の経験でしたが、多くのことを感じ、体験することができました。伊豆で行われるゼミでも、また自然と人間のつながりについて思考を深め、学びたいと思います。ありがとうございました。

長 奈緒子

チョコレート工場体験に参加して

今回の産学で、カカオの生産地ではカカオをバナナの皮に包んで皮に付着した菌で醗酵させているが、日本ではその方法では上手くいかないために乳酸菌や天然酵母などを用いて醗酵させていることを学んだ。

温度を管理して生産地の条件に近づけても日本では上手く醗酵できなかったようだ。生産に適した地域がこのように地理的な要因で限られてしまうことを改めて実感し、自然の力を感じた。

また、今回様々な方法で醗酵させたカカオ豆を味わったのだが、醗酵の仕方によって同じ産地の豆でも全く違った風味を持つようになることを知った。醗酵させる時間、方法、温度等の様々な条件を変化させることで様々な味をつくり出すことができる。

その上、その豆をブレンドする配合を変えることでより多様な味をつくりだすことができるらしい。これは、昔にはとても考えられなかったことだと思い、私はここに科学の力を感じた。

そして、小さい頃から口にしてきたチョコレートに、こんなにも無限の可能性が秘められていたことを知ったことは衝撃的でとてもわくわくする体験だった。

きっとそれは、チョコレートに限った話ではないからだ。私の身の回りにはたくさんの可能性があふれているにも関わらず、私は今まで何の疑問も持たずに通りすぎてきたかもしれない。

今回の経験は、そんな可能性に気づくことができたとても貴重なものだった。私はこれからもこのような気づきを大切にしていきたい。

高澤 乃絵

チョコレート工場リポート

工場で発酵の仕方が違うカカオ豆の食べ比べをしました。それぞれ香りや味が大分違い、甘いものや苦いものもあれば、フルーティーな香りやアルコールの匂いがするものまで様々で、同じカカオなのに発酵の仕方でまるで別のものができることに非常に不思議な感覚を覚えました。

カカオポッドの中にある、カカオ豆を覆っているパルプから得られた液体を試飲したのですが、この液体がジュースのように美味しかったです。

現地の農家の人々が収穫の際に飲む重要な飲料源だと知り、現地での収穫時の様子が大いに想像できました。

現地から送られて工場に着く大量のカカオ豆の中には収穫の際に混じったタバコや銃弾がそのまま入っていることがよくあると聞き驚きましたが、それらのカカオ豆から実際に自分たちの手でチョコレートを作ったことで、普段私たちが食べるチョコレートのはじまりは途上国のカカオなのだということを実感し、一気に途上国が身近に感じられるようになりました。

普段スーパーやコンビニで当たり前のように既製品の状態で購入するチョコレートを自分たちの手で一から作るのは大変でしたが、他ではできない貴重な体験であったと思います。

松本 美希

チョコレート工場体験感想

私は、このプログラムに参加する以前は、取り立ててチョコレートに対する深い思い入れはありませんでした。将来食に関わる職に就きたいと思っているので、その参考とするために、普段できない経験をしたいという気持ちで応募しました。

実際にチョコレート作りに携わってみて、私の中でチョコレートに対する印象が大きく変わりました。チョコレートが発酵食品であるということさえ私は知りませんでした。

今回のチョコレートでは、酵母や乳酸菌をカカオ豆に添加していますが、熱帯地域では、カカオポッドから取り出したカカオ豆をバナナの皮の上で乾かす際に付着する菌によって発酵させているらしいです。

発酵させたカカオ豆を少し食べさせていただきましたが、豆の段階でかなり大きく風味が異なり驚きました。

酸っぱかったり、苦かったり、熱帯フルーツの香りがしたり。色も真っ黒もあれば薄茶色もありました。コーヒー豆の種類が豊富であるようにカカオ豆もバリエーションに富んでいました。

考えてみれば当たり前かもしれませんが、これまではカカオ豆に個性があるという発想がなかったので衝撃的でした。それらをローストすると、今度は一気に香りがチョコレートに近くなりました。

皮を取り除き、ローラーを用いて粉砕し、他の材料と混ぜ、湯煎にかけて練り上げていきます。ここまでくると、もうよく見知ったチョコレートの姿をしていました。

練り始めた時は垂らしてもポタポタ落ちる状態でしたが、ヘラでかき混ぜることによってなめらかさが増し、最終的にはサラサラと流れるチョコレートになりました。

この過程でも、練れば練るほどチョコレートの状態が見違えるほど変化したので驚きました。練りによって、食感がなめらかになるだけではなく、チョコレートの酸味が飛び、味に丸みが出るらしいです。

特に、ショコラティエさんたちが練ってくださった時は、ほんの数分でチョコレートのとろみが増し、感動しました。正直これまで私はチョコレートの商品間の味の違いをあまり意識していませんでした。

しかし自分でカカオ豆からチョコレートを作ったことにより、チョコに含まれるカカオの風味や舌触りなどの質の違いに気づくようになりました。

一度気づくと、なぜこれまで気づかなかったんだろうというくらい大きな違いでした。その「視点」を獲得できたことが、この体験での一番の成果だと思っています。

また、市販されているチョコレートの多くは、大きな工場で大量生産されていますが、一番初めの商品開発の段階では、今回の作業と同じように、手でカカオの皮を剥き、ローラーにかけ……と私たちでも取り扱える設備で作られていると聞きました。

カカオ豆からのチョコレート作りと聞くと縁遠い世界の話のような気分でしたが、作業工程はケーキやお菓子作りの延長線上にあるんだなと思いました。

自分の中で製造業への先入観が小さくなったような気がします。市販されている製品も、完成されたものというより、ショコラティエさんたちの試行錯誤の結果たどり着いたものと捉えるようになり、より身近に感じるようになりました。

チョコレート製造の内側を自分の目で見ることができ、知識や雑学が増えたというよりは、これまでになかったものの見方ができるようになったような気がします。

大庭 有里子

伊豆ゼミ「チョコレート作りを終えて」

以前からチョコレートを用いてお菓子を作ったり、チョコレート菓子を食べたり、チョコレートは私にとって非常に身近なものでした。毎日、当たり前のように口にしていたチョコレートですが、今回の研修を通して、新たな発見や驚きがありました。

例えば、カカオ豆は実の中では白いパルプ(繊維のようなもの)に包まれていること、そのパルプもジュースにするとトロピカルな甘さでおいしいこと、カカオ豆にも様々な品種があって生産地や発酵乾燥の方法によっても全く風味が変わってくることなど、興味深いことを数多く学ぶことができました。

実際に、カカオ豆からチョコレートを作ってみて、その工程の多さや温度調整などの繊細さに戸惑うことも多かったのですが、多くの方々に助けていただきつつ貴重な体験ができました。

私が今回、参加することになった伊豆ゼミは、「身近なものごとへの新たな視点」と「人と人との関わりの大切さの再認識」という二つのテーマを柱にして、自然の中で頭と体を使って様々な活動を行っていくゼミです。

先日の「チョコレート研修」は、伊豆ゼミの事前学習という位置づけでしたが、一月末の本講義にも生かすことのできるような有意義な時間を過ごすことができました。

この手作りチョコレートを手にしてくださった皆様が、これをきっかけに身近な何かについて改めて考えてみようかな、人との関わりを大事にしようかな、そんな風に感じていただければ幸いです。

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